芥川龍之介 1 Reply 二日月 君が小指の爪よりも ほのかにさすは あはれなるかな すがれたる 薔薇をまきて おくるこそ ふさはしからむ 恋の逮夜は 美しき 人妻あらむ かくてあゝ わが世かなしく なりまさるらむ
shinichi Post author12/11/2023 at 12:14 am 二日月 君が小指の爪よりも ほのかにさすは あはれなるかな すがれたる 薔薇をまきて おくるこそ ふさはしからむ 恋の逮夜は 美しき 人妻あらむ かくてあゝ わが世かなしく なりまさるらむ かなしみは 君がしめたる 其宵の 印度更紗の 帯よりや来し 其夜より 娼婦の如く なまめける 人となりしを いとふのみかは 香料を ふりそゝぎたる ふし床より 恋の柩に しくものはなし うかれ女の うすき恋より かきつばた うす紫に 匂ひそめけむ 麦畑の 萌黄天鵞絨芥子の花 5月の空に そよ風の吹く 幾山河 さすらふよりも かなしきは 都大路を ひとり行くこと 春漏の 水のひゞきか あるはまた 舞姫のうつ とほき鼓か ほのぐらき わがたましひの 黄昏を かすかにともる 黄蝋もあり 憂しや恋 ろまんちつくな少年は 日ねもすひとり 涙流すも いつとなく いとけなき日の かなしみを われにおしへし 桐の花はも いととほき 花桐の香の そことなく おとづれくるを いかにせましや うつゝなき まひるのうみは砂のむた 雲母のごとくまばゆくもあるか 広重の ふるき版画の てざはりも わすれがたかり 君とみればか 初夏の 都大路の夕あかり ふたゝび君と ゆくよしもがな 片恋の わが世さみしく ヒヤシンス うすむらさきに にほひそめけり 病室の 窓にかひたる 紅き鳥 しきりになきて 君おもはする 五月来ぬ わすれな草も わが恋も 今しほのかに にほひづるらむ 刈麦の にほひに雲もうす黄なる 野薔薇のかげの夏の日の恋 香料を ふりそゝぎたるふし床より 恋の柩にしくものはなし Reply ↓
二日月 君が小指の爪よりも ほのかにさすは あはれなるかな
すがれたる 薔薇をまきて おくるこそ ふさはしからむ 恋の逮夜は
美しき 人妻あらむ かくてあゝ わが世かなしく なりまさるらむ
かなしみは 君がしめたる 其宵の 印度更紗の 帯よりや来し
其夜より 娼婦の如く なまめける 人となりしを いとふのみかは
香料を ふりそゝぎたる ふし床より 恋の柩に しくものはなし
うかれ女の うすき恋より かきつばた うす紫に 匂ひそめけむ
麦畑の 萌黄天鵞絨芥子の花 5月の空に そよ風の吹く
幾山河 さすらふよりも かなしきは 都大路を ひとり行くこと
春漏の 水のひゞきか あるはまた 舞姫のうつ とほき鼓か
ほのぐらき わがたましひの 黄昏を かすかにともる 黄蝋もあり
憂しや恋 ろまんちつくな少年は 日ねもすひとり 涙流すも
いつとなく いとけなき日の かなしみを われにおしへし 桐の花はも
いととほき 花桐の香の そことなく おとづれくるを いかにせましや
うつゝなき まひるのうみは砂のむた 雲母のごとくまばゆくもあるか
広重の ふるき版画の てざはりも わすれがたかり 君とみればか
初夏の 都大路の夕あかり ふたゝび君と ゆくよしもがな
片恋の わが世さみしく ヒヤシンス うすむらさきに にほひそめけり
病室の 窓にかひたる 紅き鳥 しきりになきて 君おもはする
五月来ぬ わすれな草も わが恋も 今しほのかに にほひづるらむ
刈麦の にほひに雲もうす黄なる 野薔薇のかげの夏の日の恋
香料を ふりそゝぎたるふし床より 恋の柩にしくものはなし