戦争と経済破綻(玉木俊明)

経済成長のために国債(公債)を償還することができたというのが、おそらく17世紀頃から現代までの世界史の実相であろう。国債(公債)の発行により戦費を賄い、さらにそれを平時になって返済するというシステムが形成されたのが、近代ヨーロッパの大きな特徴であった。
近世のヨーロッパでは、火器の導入に代表される軍事革命のために、国家の軍事費はうなぎのぼりに上昇した。戦争のためナショナリズムが高揚し、国境とは、中央政府が税金をかけることができる範囲を意味する主権国家が誕生することになった。ここに、近代国家が生まれることになったのである。
国債(公債)の発行は、戦費を調達するためであった。戦時に国債(公債)を発行し、それを平時に償還する。それは、経済が成長するからこそ容易になる。しかし、経済成長がなくなれば、国債(公債)の償還は困難になるはずだ。

2 thoughts on “戦争と経済破綻(玉木俊明)

  1. shinichi Post author

    戦争と財政の世界史: 成長の世界システムが終わるとき

    by 玉木俊明

    「戦争」と「財政」によって形成された現代社会。防衛費倍増の財源として増税や国債発行が議論される今、その歴史的背景を探る。

    現在、日本では5年間で防衛費を現在の2倍まで引き上げることが検討されている。その財源として、増税と国債発行という2つの方法が考えられる。
    増税をすると、通常、経済は成長しない。しかし、その根底にあるのは、増税しても、やがて経済は成長するという一種の信仰ではないか。増税論者には、一時的に増税をしてもやがて日本経済は復活するという前提がある。
    それに対し国債を発行すべきだと主張する人々は、増税で経済成長がストップすると考えている。経済は常に成長すべきであり、それを妨げるような政策はすべきではないと考えているように思われる。
    一見すると矛盾しているように思われるこれらの考え方の基底には、持続的経済成長は当然のことだという前提がある。しかし、この前提自体が間違っているかもしれないのだ。
    近世以降の世界で国債を大量に発行できたのは、経済成長が前提となっていたからであるが、現在の日本では人口が減少しており、さらに近い将来世界で人口が減少するかもしれず、経済成長が期待できるかどうかはあやうい。本書では、日本をはじめとする世界経済の債務超過が招く危機の可能性までを問う。

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  2. shinichi Post author

    <書評>『戦争と財政の世界史 成長の世界システムが終わるとき』玉木俊明 著

    ◆公債返済の前提が破綻
    [評]根井雅弘(京都大教授)

    東京新聞

    https://www.tokyo-np.co.jp/article/295036

     「持続的経済成長」を前提とする社会システムは消滅の運命にある-本書はこう主張する警世の書である。
     近代世界システム論で有名なウォーラーステインの説では、「持続的経済成長」は17世紀のオランダから始まった。当時のオランダは、七つの州が公債を発行し、戦費を調達し、1人当たりの税負担がヨーロッパでも多い国だった。だが、公債を返済できたのは、「持続的経済成長」が実現されていたからである。
     これに対して、18世紀のイギリスは、フランスとの戦争に勝利するために、イングランド銀行に巨額の国債を発行させ、その返済を議会が保証するという形の資金調達を行った。しかし、ここでも、イギリスが長期的に何とか借金を返済できたのは、「持続的経済成長」が当然のことのように前提されていたからだ。19世紀初頭、イギリスの公債発行額の対GDP比は200%近かったが、経済成長のおかげで、19世紀末にはその比率は30%ほどになった。「大英帝国」が、海運業や金融業からの収入や植民地からの収奪に支えられていたことも公債依存度の低下に寄与した。
     日本も日露戦争の巨額の戦費を、欧米の外債市場での国債発行によって調達したが、その借金を最終的に1986年に完済できたのは、やはり経済成長のおかげである。
     ところが、最近、先進諸国は少子高齢化と社会保障費の増大によって公債依存度が高まるようになっている。「持続的経済成長」が期待できなくなった現在、その借金は返済できるのだろうか。著者は、それはもはや持続可能ではないレベルに達していると主張する。
     イノベーションによって経済成長はまだ実現可能であるという反論はある。だが、「持続的経済成長」を前提にした社会システムが消滅の危機に瀕(ひん)しているという著者の主張は、「脱成長論」とはまた別の文脈で、成長至上主義に警鐘を鳴らすものである。やや悲観的に過ぎるところもあるが、歴史的視野をもって財政問題を考えるときに参考になるに違いない。

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