南海トラフ巨大地震(経済的な被害)

南海トラフ巨大地震の被災地は中部地方、近畿地方、四国地方、九州地方を中心に超広域にわたり、地震動、液状化、津波による浸水及び火災等により、建物や資産、土地や交通施設等のインフラ・ライフライン等が著しく損壊する。
被災地には、我が国の経済を支えている地域が含まれ、鉄鋼業、石油化学工業、自動車製造業、船舶・航空機の製造業、電子・電気機器等の製造業が高度に集積していて、これらの産業を中心に全国・海外にまで相互に密接に関連するサプライチェーン・ネットワークが形成されている。このため、経済的な被害の影響は被災地内にとどまらず、全国・海外へと波及する。
被災地には、多くの農地や漁港、食料品工場等が集積している。このため、これらの被災により食料品や生活必需品の供給が滞ると、被災地外においても品不足とそれに伴う価格の高騰が生じ、市民生活に影響が及ぶ。
被災地は、東名・名神高速道路、東海道・山陽新幹線、名古屋港、大阪港、神戸港等が整備され、国内外における経済活動を支える人流・物流の大動脈となっている。これらの交通施設の損壊により物流が寸断されれば、燃料・素材・重要部品の調達が困難となるため、全国の生産活動が低下するとともに、港湾施設の被災により、輸出入の取り止めによる機会損失、代替輸送による時間損失やコスト負担が生じる。
生産活動の低下や物流寸断が長期化した場合、調達先を海外に切り替える動きが顕著となり、生産機能が国外流出する。工場等の喪失、生産活動の低下により、経営体力の弱い企業が倒産する。また、日本企業に対する信頼が低下し、株価や金利・為替の変動等に波及する。これらの影響が拡大すると、資金調達コストが増大し、企業の財務状況の悪化や倒産等が増加する。また、長期間にわたる生産活動の低下や海外貿易の滞りにより、海外に奪われた需要が地震発生前の水準まで回復せず、我が国の国際競争力の不可逆的な低下を招く。これらによる雇用環境の悪化や失業者の増加により、雇用者の所得が低下し、購買意欲を減退させるなど、景気停滞への負のスパイラルに陥る。経済活動の低下等による影響は、長期的な税収入の減少に結びつき、復旧・復興に要する財政出動と併せて、国や地方公共団体の財務状態が悪化する。また、日本経済に対する海外の信頼が低下し、海外からの資金調達コストが増大する。
産業の復興は、被災地における人員確保と生活再建が大前提となる。行方不明者の捜索活動や被災者の生活再建に時間がかかる場合、企業による早期の本格的な事業再開は見込めず、経済活動の低下が長期化し影響が拡大する。

2 thoughts on “南海トラフ巨大地震(経済的な被害)

  1. shinichi Post author

    被害の様相

    (1)民間部門

    ①直後~数か月

    ■被災地における被害の様相

    建物・資産の被災、喪失 資産価値の下落
    <直後~数週間後>
    • 損壊・喪失した多くの施設・設備の補修や建て直しに多額の費用が必要となる。
    <数週間後~数か月後>
    • 液状化が発生した地域や津波による浸水被害が発生した地域では、マンション等の施設や地価が下落する。

    生産・サービス低下による生産額の減少
    <直後~数週間後>
    • 工場や従業員等が被災し、生産力、生産額が減少する。
    <数週間後~数か月後>
    • 被災した施設の復旧、代替生産、労働力の確保が遅れた場合、生産額が更に減少する。 • 顧客離れが進行する。

    観光・商業吸引力の低下等
    <直後~数週間後>
    • 観光・商業施設の損壊、交通アクセスの寸断、風評被害により被災地及び周辺地域の観光・商業吸引力が低下する。
    <数週間後~数か月後>
    • 風評被害等の影響が長期化し、他地域への顧客流出、観光自粛等による損失が増加する。

    ■全国への波及の様相(被災地内外いずれにも生じる事象を含む)

    電力需要の抑制(節電要請、電力使用制限、計画停電等)による影響
    <直後~数週間後>
    • 電力需要の抑制により、工場稼働率が低下し、生産額が減少する。
    <数週間後~数か月後>
    • 電力需要の抑制による営業時間制限、電力使用の自粛等により生産額が減少する。

    企業の中枢機能の低下
    <直後~数週間後>
    • 企業の判断・指揮命令機能やデータセンター機能等が停止し、企業活動が停止したり、効率性が低下する。
    <数週間後~数か月後>
    • 中枢機能の復旧が遅れた場合、生産活動再開の遅れ、非効率な企業活動等により経済への影響が拡大する。

    サプライチェーン寸断による生産額の減少
    <直後~数週間後>
    • 限定された工場でしか生産していない重要部品等の生産が停止したり、物流寸断により燃料・素材・重要部品の調達が困難となり、全国の生産活動が停止・低下する。 • 多くの食料品や生活必需品等の工場が被災して生産が滞るため、被災地外においても品不足が生じる。
    <数週間後~数か月後>
    • 調達先を海外に切り替える動きが顕著となり、生産機能の国外流出が進行する。

    金融決済機能の停止
    <直後~数週間後>
    • 個別の金融機関の支払不能、特定の市場または決済システムの機能不全等による債務不履行等の影響が、他の金融機関、市場、さらに金融システム全体に波及する。

    東西間交通寸断に伴う機会損失
    <直後~数週間後>
    • 幹線ルートの寸断に伴う迂回コストの発生、移動や輸送活動の取止めにより、経済活動が低下する。
    <数週間後~数か月後>
    • 幹線ルートの復旧が遅れた場合、代替ルートの恒常的な渋滞が生じ、経済活動全体の効率性が低下する。

    消費マインド・サービス産業の低迷
    <直後~数週間後>
    • 買い控え等の自粛行動が生じ、商業・観光サービス業の売り上げが低下する。
    <数週間後~数か月後>
    • 買い控え等の現象は徐々に解消される。 特定商品の価格の高騰
    <直後~数週間後>
    • オンリーワン企業の被災による供給力の低下、流言等の影響により各地で買占めが行われ、特定商品の価格が高騰する。
    • 食料品等の供給力低下に伴う品不足により、価格が高騰する。
    <数週間後~数か月後>
    • 流言の影響による買占めや価格の高騰は徐々に収束するが、オンリーワン企業の被災による商品の価格の高騰は数か月以上継続する。

    株価等の資産価格の下落、金利変動等
    <直後~数週間後>
    • 日本企業に対する信頼が低下した場合、株価や金利・為替の変動等に波及する。
    <数週間後~数か月後>
    • 株価等の資産価格の下落等が生じた場合、資金調達コストが増大すること等により、企業の財務状況の悪化や倒産等が増加する。

    海外法人の撤退
    <直後~数週間後>
    • 被災地や電力需要の抑制が実施される地域を中心に、外国人の従業員が帰国し、労働力が不足する。
    <数週間後~数か月後>
    • 日本に対する信頼が低下した場合、海外から日本への投資に影響する。

    ②数か月~数年

    ■被災地における被害の様相 被害の様相

    企業の撤退・倒産
    <数か月~1年後>
    • 工場等の喪失により、経営体力の弱い中小・零細企業が倒産する。
    <1年~数年後>
    • 被災地外や海外に撤退した機能が震災前の水準まで回復しない。

    雇用状況の変化 失業の増加、所得の低下
    <数か月~1年後>
    • 工場等の移転、事業撤退、倒産等により、被災地の雇用環境が悪化し、失業者が増加し、雇用者の所得が低下する。
    <1年~数年後>
    • 被災地復旧後も、被災地外や海外に流出した生産機能等が震災前の水準まで回復せず、雇用環境が改善されない。

    生産機能の域外、国外流出
    <数か月~1年後>
    • 海外への調達先の変更、工場の海外移転により、生産品の国際的なシェアが低下する。
    <1年~数年後>
    • 被災地外や海外に流出した需要が震災前の水準まで回復せず、国際競争力が低下する。

    国際的競争力・地位の低下
    <数か月~1年後>
    • 名古屋港等が機能を停止し、国際港湾としての地位が低下する。
    <1年~数年後>
    • 国際港湾としての地位の低下傾向が継続する。

    復興投融資に伴う生産誘発効果
    <数か月~1年後>
    • 復興投融資による生産誘発効果が徐々に顕在化する。
    <1年~数年後>
    • 復興投融資が本格化し、インフラ・建設関連産業を中心に生産誘発効果が生じ、景気の押し上げ効果が生じる。

    ■全国への波及の様相(被災地内外いずれにも生じる事象を含む)

    特定商品の価格の高騰
    <数か月~1年後>
    • 食料品や生活必需品の供給低下が長期化する場合、被災地外においても品不足、価格の高騰が継続する。

    資金調達の困難化企業等債務残高の増大 債務不履行の増加
    <数か月~1年後>
    • 株価等の資産価格の下落等が生じた場合、資金調達コストが増大すること等により、企業の財務状況の悪化や倒産等が増加する。
    <1年~数年後>
    • 株価等の資産価格の下落や信用スプレッドの拡大等が長期化した場合、景気への影響が拡大する。

    国際的信頼の低下
    <数か月~1年後>
    • 海外の顧客への商品供給が長期停止し、日本企業に対する信頼が低下した場合、顧客離れが進行する。 • 日本の安全性への信頼が低下した場合、海外からの観光目的や商業目的の来訪者が減少する。
    <1年~数年後>
    • 日本企業に対する信頼の低下が続いた場合、資金調達コストへの影響が生じる。

    (2)準公共・公共部門

    ■被災地における被害の様相

    ライフライン施設の被災
    <直後~数週間後>
    • ライフラインが損壊し、補修や建て直しに多額の費用が必要となる。 • ライフライン寸断に伴い生産活動が低下する。
    <数週間後~数か月後>
    • 応急復旧措置等によるコスト増大により、ライフライン事業者の経営状況が悪化する。

    公共土木施設等の被災
    <直後~数週間後>
    • 道路等の交通施設等が損壊し、補修や建て直しに多額の費用が必要となる。 • 被災した交通施設が復旧するまでの間に、移動取止めに伴う機会損失、迂回コスト、渋滞等に伴う時間損失が生じる。
    <数週間~数か月後>
    • 交通施設の寸断に伴う影響が継続する。
    <数か月~数年後>
    • 交通施設の復旧が遅れた場合、更に影響が継続・拡大する。

    農林漁業関連インフラの被災
    <直後~数週間後>
    • 農林用地及び農業・漁業用設備の損壊、津波による農地の塩害、養殖筏の流失被害が生じる。
    <数週間後~数か月後>
    • 損壊した農地や漁業用設備、塩害を受けた農地等の復旧に長時間を要し、農林漁業の生産額が減少する。

    人口・産業流出 税収入の減少
    <数か月~数年後>
    • 流出人口や産業機能の回復が図られず、税収入が減少する。

    被災自治体の財政状態の悪化
    <数か月~数年後>
    • 復旧・復興に要する財政出動により、財務状態への影響が生じる。

    ■全国への波及の様相(被災地内外いずれにも生じる事象を含む)

    国家財政状況の悪化
    <数か月~数年後>
    • 復旧・復興に要する財政出動により、財務状態への影響が生じる。

    国際的信頼の低下
    <数週間~数年後>
    • 海外からの信頼が低下した場合、海外からの資金調達コストの増大等の影響が生じる。

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