「中国広しといえども、延吉ほど情報がカネになる町はない」
中朝国境の町、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉で、中朝貿易商の男性はこう切り出した。朝鮮族のこの男性は数年前まで、北朝鮮情報のブローカーだった。
「延吉には、米国や中国、韓国、日本の政府関係者に学者、各国の新聞記者が集まる。平壌の最新の動きであれば高い金で買ってくれる」と話し、「いい情報が手に入ったときは、いろんなところに何回も売ってもうけた」と語った。
「金正日を打倒せよ」というハングルで書かれたビラを北朝鮮商人に渡し、平壌市内の市場の壁に一瞬だけ張ってもらう。背景を入れて写真を数枚撮ってから、すぐにはがす。見つかれば銃殺刑にもなる危険を冒した北朝鮮商人が受け取った報酬は300ドル(約3万円)だったという。
1週間後、韓国の大手新聞の1面に「平壌市内で反政府ビラを発見」との記事が写真とともに掲載された。男性は「平壌に行ったことのある人間ならすぐに嘘と分かってしまうが、世界中がだまされたようだ」と笑った。
世界中がだまされた「打倒、金正日」
MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130726/kor13072616200004-n1.htm
「中国広しといえども、延吉ほど情報がカネになる町はない」
中朝国境の町、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉の焼き肉店で、中朝貿易商の40代男性は小さなコップの焼酎を一気飲みしてこう切り出した。朝鮮族のこの男性は数年前まで、北朝鮮情報のブローカーだった。
「延吉には、米国や中国、韓国、日本の政府関係者に学者、各国の新聞記者が集まる。平壌の最新の動きであれば高い金で買ってくれる」と話し、「いい情報が手に入ったときは、いろんなところに何回も売ってもうけた」と語った。
売れたのは日本人拉致被害者の情報だ。北朝鮮内で「誰かが、拉致された日本人と思われる人物と接触した」という話をキャッチすれば、それに関する詳細なメモを手渡すだけで少なくとも数百ドルになった。
金正日(キム・ジョンイル)総書記一家の情報もいい値が付いた。2009年に金正恩(ジョンウン)第1書記の後継者内定が日韓で報じられた半年以上前から国境の町では「三男が後継者に決まったらしい」との情報が出回っていたという。
一方で、悪質なブローカーが脱北者に日本の新聞の内容を覚えさせ、「拉致被害者を見た」と嘘の証言をさせて、報道関係者から取材費をだまし取るといったこともあったという。
金正日政権の末期、北朝鮮は情報流出に対する管理を厳しくし、中国も情報ブローカーへの取り締まりを強化した。家族が病気になったこともあって男性は情報の世界から手を引いた。
「昔ほどいい情報が出なくなった。誰もが驚くようなものには、偽物が含まれていると思った方がいい」
危険冒し報酬300ドル
男性は仲間が数年前に手がけた「最大の偽情報」の仕掛けを語った。
「金正日を打倒せよ」というハングルで書かれたビラを北朝鮮商人に渡し、平壌市内の市場の壁に一瞬だけ張ってもらう。背景を入れて写真を数枚撮ってから、すぐにはがす。見つかれば銃殺刑にもなる危険を冒した北朝鮮商人が受け取った報酬は300ドル(約3万円)だったという。
1週間後、韓国の大手新聞の1面に「平壌市内で反政府ビラを発見」との記事が写真とともに掲載された。男性は「平壌に行ったことのある人間ならすぐに嘘と分かってしまうが、世界中がだまされたようだ」と笑った。
国境の橋の近くで出会った30代の朝鮮族男性は北朝鮮に農業技術を教える仕事をしていた。
仕事でよく北朝鮮に行き、幹部とも接触するが、「見たもの、聞いたものを口にしない」と決めているという。
「延吉に戻ると、いろんな人が接触してくる。金を渡そうとする人も多い。しかし自分が話したことは情報として取引され、北朝鮮当局に渡る恐れもある。北朝鮮の友人らにどんな迷惑をかけるか分からないから何も話せない」とし、「北朝鮮は恐ろしい国だから」と続けた。
野放しの北工作員
延吉の公安当局者によれば、北朝鮮が延吉周辺に派遣している工作員は少なくとも数百人に上る。
レストラン店員や労働者に成りすまし、脱北者に紛れ込んで越境してくる者もいるという。
ただ、北朝鮮工作員は中国の内政や軍事情報には関心がない。彼らの任務は「防諜」であり、拉致被害者に関する話など機密情報を漏らす脱北者を捜すことだからだ。延吉の公安当局者は当たり前といった顔でこう話した。
「中国の国益とは関係ないから北朝鮮の工作員と分かっていても、私たちはほとんど相手にしない」